伝統工芸を現代の住空間の中でどう生かすのか――。その問いに対する一つの答えともいえる照明作品『灯るこけし』が誕生した。ソニーグループのデザイナーと、宮城県大崎市鳴子温泉で代々「鳴子こけし」を製作する桜井こけしとの共創から生まれたペンダントライトで、照明部分の製造を兵庫県多可町の照明メーカー、村上工作所が担当し、6月17日から伊勢丹新宿店で開催される展示販売会で公開された。
近年の建築・インテリアの分野では、単に伝統工芸を飾るのではなく、暮らしの中で使われるプロダクトとして再編集する動きが広がっている。『灯るこけし』もそうした潮流の中から生まれた作品だ。こけし特有の柔らかな曲線や木肌の表情を生かしながら、ペンダントライトという日常的な照明へと昇華させた。
デザインは、ソニーグループのクリエイティブセンターに所属する三島章正氏が担当。鳴子こけしの製作工程である「ろくろ挽き」から着想を得て、伝統的なこけしのフォルムを現代の照明器具として再構築した。木地製作は桜井こけしの櫻井尚道氏、描彩は櫻井昭寛氏が手掛けており、長年受け継がれてきた職人技と現代デザインが融合したプロダクトとなっている。
その中で重要な役割を果たしたのが村上工作所の照明技術だ。建築照明において光は単に空間を明るくするための設備ではなく、素材感や居心地、空間の印象そのものを左右する存在とされる。今回、同社は木地の美しさを損なうことなく内部から光を灯すための機構設計を担当。木という自然素材の温もりや滑らかな質感を残しながら、柔らかな光がにじみ出るよう細部まで工夫を重ねたという。
完成した『灯るこけし』は、工芸品でありながら照明器具として暮らしに溶け込む。昼間は木工芸としての存在感を放ち、夜になると穏やかな光によって空間に温かみを与える。まるでオブジェと照明の中間にあるような佇まいは、近年の住宅やホテル、ギャラリーなどで重視される「光による空間演出」の考え方とも親和性が高い。
また、このプロジェクトは伝統工芸を保存するだけではなく、新たな需要や価値創出へつなげる試みとしても注目され、地域に根差した職人技術、企業デザイナーによる現代的な解釈、そして照明メーカーの技術が交差することで、従来にはなかったプロダクトが生まれた。建築やインテリアの世界で求められるのが均質な製品ではなく、物語や地域性を備えた素材や家具へと移りつつある中、『灯るこけし』は伝統工芸を暮らしの道具として再定義する事例の一つの選択肢となりそうだ。
村上工作所
https://www.murakami-kousakusho.co.jp/




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