2025年4月21日月曜日

2025年 日本建築学会賞(作品) 発表

 一般社団法人日本建築学会より、日本建築大賞、日本建築学会賞(作品・技術・論文・業績)ならびに、日本建築学会作品選奨が発表された。
日本建築学会賞(作品)は、主として国内に竣工した建築の設計(庭園・インテリア,その他を含む)であって、技術・芸術の進歩に寄与する優れた作品に与えられる。 本年は60作品の応募があり審査を通過した8作品の現地審査を経て<天神町place >と<高槻城公園芸術文化劇場>の2作品が、2025年 日本建築学会賞(作品)に決定した。

 2025年 日本建築学会賞(作品)
 天神町place 
 伊藤 博之(伊藤博之建築設計事務所代表/工学院大学教授)
撮影:西川公朗
敷地は台地の淵、崖にかかるような旗竿地である。縄文時代前期の海岸線に近く、台地と谷戸が複雑に入り組んだ地形は、小さな原始的住居に住む古代の人々にとって厳しい自然から身を守ることを目的とした時、建築的解決の一端を担う自然の造形だったのだろう。建築が今ほど高性能ではない時代、このような自然の造形から得る「場所の発見」こそが建築行為の始まりであった。

現在において建築は外的環境に左右されず安定した生活環境を内包する性能を獲得し、さらには社会的背景への解答としての在り方が求められている。この建築の進化を背景として、都心部は人々の住処の受け皿としてのビルに埋め尽くされ、足元の豊かな自然や生活を育む自然の造形を失い、場所の発見の素地は薄れつつある。多くの人に空間を分配するため効率化の連続が都心の風景となり、その風景を背景に建築が再生産される高次な人工化が進むなか、生活者が「場所の発見」を通して住処を選ぶことは難しい。

地図アプリの衛星写真で目的地を探すようになってから、新たな建築とのファーストコンタクトは立面から平面へと変化した。その新たな視点はこの作品の特徴を示す最も強いサインになり得るが、「天神町place」という場所を語るには目線を落として五感を働かせて歩くといい。高密度に利用が進行する雑多性の街並みに、小さく奥深く現れる隙間が開いている。中へ進むと直径9m程のコートヤードが立体的に下方に広がり、小さな窓のあるコンクリートの高い壁がぐるりと周囲を囲む。一層分の階段を下りるとコートヤードの真ん中で、見上げれば遠くに空、足元からは風が湧いている。古代の海岸線の崖を吹き上がる風である。台地の淵の複雑な高低差のひだの上に住戸空間を内在する二重曲線を重ね描いた賃貸集合住宅である「天神町place」は、環状集落における広場のようにすべての住人がこの風の通るコートヤードを共有している。コンクリートに刻印された木片型枠の質感、二重曲線の内外をつなぐテラス、室内から覗くコートヤードの存在。それらを感じ取る人々の感性が緩やかな共感と相互の安心感を作り出している。

豊かな場所性を求める結果として場所性を消費し薄めてしまう、都市化の宿命的なループを断ち切り再起動するのみならず、集まって住むことの本質的な魅力へと繋げている「天神町place」は、都市の風景を形成するビルディングタイプである賃貸集合住宅において、新たな評価軸を加える重要な転換点である。よって、ここに日本建築学会賞を贈るものである。※2025年日本建築学会賞(作品)選考経過より


 2025年 日本建築学会賞(作品)
 高槻城公園芸術文化劇場
 江副 敏史(㈱日建設計設計監理部門デザインフェロー)
 多喜 茂(㈱日建設計設計審査グループアソシエイト) 
 髙畑 貴良志(㈱日建設計設計グループ兼テックデザイングループDDL)
撮影:伊藤 彰[aifoto]
建築とは諸々の技術を統合しながら、れた空間の実現を志向するものである。またそれが公共施設ならば、施主や条件の特殊性に閉じることなく、同時代性を受けとめながら、より良い社会と環境を広く生みだすことに貢献することが求められる。以上の前提を踏まえたとき、高槻城公園芸術文化劇場は、意匠、計画、環境、材料、構造など、建築的な総合性を高い水準で獲得しており、その上で、学会賞としてふさわしい新しい実験や挑戦を遂行した突出した作品として評価できる。以下に、重要なポイントを挙げよう。

第一に、広く開かれた公共建築である。1階レベルを少し持ち上げ、地下1階もアクセスしやすくし、断面構成を工夫することで、全体としての高さを抑えた。またリュームを分節し、大小のボックスを中庭とともに散りばめることで、威圧感をなくすだけでなく、公園と一体化し、あちこちに出入口をもつ。そしてホワイエ、スタジオ、カフェなど、ほとんどの空間がガラス張りになっており、透明感にあふれる。小ホールも両サイドに自然を感じる開口が設けられた。公演時以外も閉鎖的になることなく、平常時に通り抜けができ、近くの住民や子どもたち、あるいは隣接する2つの学校の生徒も立ち寄っている。 

第二に、「高槻の杜」をコンセプトに掲げ、徹底的に木材の活用を試みていること。これ自体は近年のトレンドでもあるが、さらにその先の可能性が追求された。すなわち、大阪府の森林組合に年間素材生産量を確認し、およそ350m3使うことを決め、丸太から切り出す際も、BIMで管理しながら、部位ごとの特性を考慮し、外装、内装、小ホールなどに割り当てる。木製ルーバーについては、外部の材は液体ガラスに含浸させ、ランダムな揺らぎを与えながら並べ、微細な陰影の差を生みだしたり、ホワイエで整然と配置することで、城下町の立格子を想起させるなど、様々な表情を与える。特に大ホールは、木の芯持材を使い、壁から天井まで、ピクセルのように、27千個の木キューブで覆うことによって、個性的かつ豊かな音空間を実現した。なお、案内板や什器にも、木が使われている。 

第三に、決して過剰には主張しないが、確かなエンジニアリングに支えられたデザインやディテールである。例えば、大屋根の出隅部となるエントランスや、片持ちトラス梁によるホワイエにおける無柱の空間、あるいは細い柱は、公園とつながる開放感をもたらす。また大小のホールにおける木ルーバーや木キューブは、音響シミュレーション、試験体、モックアップなどのスタディを通じて設計・施工された。 よって、ここに日本建築学会賞を贈るものである。 ※2025年日本建築学会賞(作品)選考経過より






日本建築学会賞 各賞発表

一般社団法人日本建築学会 https://www.aij.or.jp/

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