2023年4月19日水曜日

2023年日本建築学会賞(作品)3作品が決定

 一般社団法人日本建築学会より、日本建築大賞、日本建築学会賞(作品・技術・論文・業績)ならびに、日本建築学会作品選奨が発表された。

日本建築学会賞(作品)は、主として国内に竣工した建築の設計(庭園・インテリア,その他を含む)であって、技術・芸術の進歩に寄与する優れた作品に与えられる。
本年は47作品の応募があり、作品部会での審査を通過した8作品の現地審査を経て「郭巨山会所」「春日台センターセンター」「山形市南部児童遊戯施設 シェルターインクルーシブプレイス コパル」の3作品が、2023年 日本建築学会賞(作品)に決定した。


郭巨山会所
魚谷繁礼〔魚谷繁礼建築研究所代表/京都工芸繊維大学特任教授〕
魚谷みわ子〔魚谷繁礼建築研究所代表〕 
柳 室純〔柳室純構造設計代表〕
撮影:笹の倉舎/笹倉洋平
「郭巨山会所」は、築 150 年強の伝統的な町家形式の会所であり、祇園祭の祭礼の場として、地域の旦那衆によって受け継がれてきた。長手で接する膏薬辻子には、通り抜け路地には伝統的な街並みがよく残っている。だがこの会所は、1907 年の四条通の拡幅工事により表の間、中の間が削られ、祭礼時の不便を百年近く強いられてきた。近隣の山鉾町には、建て替えられたマンションの一画に収まった会所、アーケードが機械仕掛けで開く会所など、開発の波に揉まれながらも会所機能を維持しようとする試みも見られる。しかし「郭巨山会所」の場合、膏薬辻子が 2 項道路なので、新築でも増改築でも現行法規に適合させようとすると、まずは 1m 近いセットバック、さらに四条通側の道路突出部の切除、建蔽率超過の解消、耐火建築物化(防火地域内、3 階建、延床 100 ㎡以上)などが求められてしまう。そこで建築基準法の適用除外が検討されることになった。会所が保存建築物の指定を受け、基準法同等以上の地震と火災に対する安全性を確保する計画を、建築審査会に諮るスキームである。そのために増築部分も含めた保存建築物の指定が行われた。これは基準法適用除外の活用により都市遺構を継承する先行事例をつくることで、保存でもなく開発でもない選択肢を増やす企てでもある。これには幾多の町家改修を通して、京都市の建築行政と対話を続けてきた設計者の経験が生かされている。
四条通側の会所と奥の蔵を繋ぐ屋根をかけた外観、桁行方向の既存木造と梁間方向に挿入された 125 角の鉄骨フレームで地震力に抵抗し、中庭を内部化する大屋根を片持ち構造として既存の蔵と絶縁する構造計画も秀逸である。四条通側の間口から入った光は、奥に行くほど弱くなり、黒錆に蜜蝋ワックスを塗った鉄骨は木の柱梁と区別がつかない。中庭を内部化した 2 階では会所の瓦屋根と蔵の瓦屋根が暗闇に浮かぶ。
光溢れる施設に慣れた身にとって、この会所の内部は暗い。増築した屋根にトップライトを設け、地域の集会所を兼ねることもないのは、祇園祭だけに仕えることが、会所を会所たらしめているからである。光が上からではなく横向きなのは、日本の祭礼では神的なるものは道を通ってやってくることと重なる。光を受けるのは土間と土壁。闇の中には歴代の旦那衆もいるだろう。増改築によって持続され、強化されたのは、こうした会所の存在論的価値である。以上を総合して、この建築の実践と達成は学会賞(作品)に値するものと判断した。
よって、ここに日本建築学会賞を贈るものである。※2023年日本建築学会賞(作品)選考経過より


春日台センターセンター 
金野千恵(teco 代表取締役/  京都工芸繊維大学特任准教授)
写真:©morinakayasuaki
超複合福祉施設所であるこの建築作品は、立場や制度を越えることで見えてくる人間臭い生活の営みを、設計者自らが地域の当事者になり、多様な人々や環境を包括していった行為そのものがコモンズであり、背後にある共同体意識のようなものが建築として現れた作品である。
1960 年代後半に開発された宅地開発の中心である長屋状の商店街の衰退とスーパーマーケットである春日台センターの閉店を機に、設計者は「あいラボ」という活動をスタートさせ、ワークショップやフェスによって、多世代交流の地域力を作り上げると同時に、共同体の地域資源の観察や発見をしている。かつてまちの中心であったプロムナードの重要性や価値を共有化し、寺子屋、洗濯代行のコインランドリー、名物コロッケなどの機能やコンテンツをあぶり出し、さらに街に必要な小さな機能を集めつつ、住まう人、働く人、集う人の集合体としてのプログラムを練り上げた。さらに環境や自然そのものも、敷地境界を超え、まちの道や軸性を建築内に大胆に引き込むことで、この場所にしか存在し得ない唯一無二の建築となった。
大きく人々を迎えてくれるプロムナードロッジアの大庇には、人々に恩恵のある空き方をしている(そもそも敷地外である公有地に張り出しているこの大庇も、行政との協業により実現している)。居場所となるような小上がりや、窓際の多くの縁側、家具が配置され、多様な人々が一人一人、自分の場所を獲得している。緩やかな視線と光と風の通り抜ける吹き抜けを介して続く 2 階にも、寺子屋やコモンズルームによって、子ども達と福祉という場が並存している。それらすべてが木造の大屋根の下に広がる一体空間と時間が、まちの共同体意識を育てている。高齢者や障がい者の居場所といった私的な立場への配慮に対しても、設計者が多くの福祉の拠点づくりを事業者とともに、作り上げてきた経験が十分に生かされている。特にプライバシーへの配慮についても建築の長手に貫通する土間通りと奥通りが、段階的で適度な距離感を作りつつ、地域から見守られながら、付かず離れずと言った雰囲気を作り出している。と同時に生き生きとした活動の見える化が、混沌で立体感を持つ空間とあいまって、老いや障がいを乗り越え、人々が生命力を喚起させる場の力を持っている。真に有効で持続的な居場所や建築の創造を、それぞれの私的な立場を守りながら、建築に立ち向かった姿は、私たちに勇気を与え、未来に希望を持ち得る建築である。よって、ここに日本建築学会賞を贈るものである。 ※2023年日本建築学会賞(作品)選考経過より



山形市南部児童遊戯施設 シェルターインクルーシブプレイス コパル 
大西麻貴(オープラスエイチ共同代表/  横浜国立大学大学院 Y-GSA教授)
百田有希(オープラスエイチ共同代表/  横浜国立大学非常勤講師) 
平岩良之(平岩構造計画代表) 
山形市の市街地に近接する市街化調整区域であり、農業振興地域内に PFI 事業によって誕生した児童遊戯施設である。建築設計者が旗振り役となって多様な関係者からなるチームを率いて設計、建設を行った公共建築である。農地に囲まれ、国道に面する角地の敷地(2.2ha)に近づくと、遠方の蔵王の山並みの稜線に呼応するかのように柔らかなスカイラインの大屋根がまず目に飛び込んでくる。
この建築においては「インクルーシブ」がコンセプトになっている。社会包摂への注目は、社会や世界が分断化する現在に対する懸念の裏返しであるが、この建築ではそのコンセプトが大屋根だけでなく、その下の体育館と大型遊技場という 2 つの大空間の外周を巡る幅広のスロープが建築全体をシームレスにつなぐ中で具現化している。地形がそのまま遊具になったような大型遊技場、遊び道具にもなる手すり、素足の足触りでわかるような踊り場の床素材の切り替え、多様な温熱感で対応する大空間の空調等々、各所で巧みにデザインされている。身体性を喚起し、五感を重視した建築空間全体から、あらゆる子どもたち、そして大人たちを受け入れる包容性を感じるデザインである。これは設計者が主張する、従来のできるだけ大きな概念の下で人々を包むためのデザインのルール化や規格化とは異なり、個を出発点にして共感の輪を広げていくという考えに立ったデザインであり、この建築の他にない魅力となっている。
 この自由で伸びやかな内部空間を生成し、さらに外部空間との連続性を確保するためには、大屋根の構造が重要となるが、体育館上部は唐松集成材のアーチ梁表しとしつつ、アーチ梁の外周は鉄骨の平面トラスフレームで固めている。そして、自由に配置される鉄骨柱と、個室群が収められた RC 造の帯状ボリュームが地形のようにせり上がり、大屋根に近接する所で下部の RC 造に大屋根からの力を伝えている。柔らかく水平方向に伸びる開口部の先には各種の屋外空間が続き、さらにその先には蔵王の美しい山並みを見渡すことができ、屋内外の遊び場の連続性と地域のアイデンティティの共有に成功している。
 農業振興地域内に立地することから、周囲とより呼応するような屋外空間のデザインも期待したいところだが、総合的にこの建築の魅力と価値は、ここで走り、戯れ、歓声を上げる子どもたちの様子を見れば、学会賞(作品)に値するものと判断した。よって、ここに日本建築学会賞を贈るものである。※2023年日本建築学会賞(作品)選考経過より



各賞発表の詳細はこちら
一般社団法人日本建築学会 https://www.aij.or.jp/




0 件のコメント: