2019年8月30日金曜日

Vectorworks教育シンポジウム2019 畝森泰行「建築の公共性」

21日(水)に大手町サンケイプラザにて、エーアンドエー主催で行われたVectorworks教育シンポジウム2019へ。
特別講演 畝森泰行氏畝森泰行建築設計事務所「建築の公共性」を聴講。小さな住宅から公共施設まで、これまでのプロジェクトを紹介しながら公共性についてどう考えているかを話した。


畝森泰行氏(畝森泰行建築設計事務所)
事務所を設立して10年になるが、一貫して「建築の公共性」について考えてきた。それは個人住宅に限らず、公共施設も含まれる。

一般的に公共施設や公共の場とは、誰もがアクセスできるところだと考えられている。私の中の公共施設とは、その延長で個人を超えて他者に抱かれる、他者が参加できる、あるいは何か考えられるような場所。また、複数の可能性を想像できる場である場所。現代はSNSが発達し、自分の興味のある情報だけのコミュニティが形成されている。その一方で、情報社会とは別で実空間としての多様性のある、自分の興味以外の他者が存在できる公共の場が重要なテーマになると思う。 

そのために具体的に何をしているかというと、1/100から1/101/51/1など様々なスケールを持った模型を色々な角度から検討している。他には図面で言うとCADVectorworksで書いたりもするし、同時並行で手描きでスケッチもする。何が公共性に繋がるか分からないが、考える方法として色々試している。ディスカッションも同じで事務所内や、協力事務所や、エンジニアリングの方などと話す。多様性の中で一つの公共的な建築ができないかと考えている。

今日は個人住宅2つと公共施設1つ、進行中のプロジェクト1つの計4つの作品を紹介し、「建築の公共性」についてお話しようと思う。


1つ目は、事務所を設立して1番最初にできた「Small House」(2010)という、都内にある文字通り小さな住宅である。敷地の面積は約34㎡。周りは木造住宅等が密集し、道も狭い。そのため隣棟感覚が狭く、風通しも日当たりも悪かった。そこにフットプリントを小さくして建物に高さを出し、塔のような住宅をつくった。それによって周りに空地ができて、風通りや日の当たる場所を生んだ。施主のためだけでなく、隣家にも光などを届けるように考えたためだ。

半地下1階の地上4階建てで、4m×4mのフットプリントの各フロアを、1/4を占める螺旋階段で結ぶような建築。 これだけ小さいと、周りに対する窓の開き方や、風の取り入れ方が大きく変わってくる。窓からは建物を抜けて行くくらい光が入り、少し開けただけでほとんど外のように風が通り抜ける。23歩歩けば外壁に手が届くスケール感だからこそ、屋外環境と一緒に暮らしていくような建築になった。

施主の話によると、夏は涼しい半地下の寝室で寝て、冬は3階のスペアルームに布団を敷いて寝るという。季節や環境の差によって、動物のように移動しながら暮らすという事が、空間を縦に積み上げることによって生まれたと思っている。


2つ目に紹介するのは、山手通りに面する個人住宅「山手通りの住宅2014)だ。これはSmall Houseよりもさらに小さい24㎡という極小な敷地に建つ。機能は住宅と鞄屋という店舗併用住宅で、周囲には40階建ての高層ビルが隣立する。向かいのビルから敷地を検討すると、高さが上がっていくにつれて少しずつ山手通りの喧噪が薄れ、光や風が入れこめそうだった。

設計では、1人暮らしの男性である施主の、今後結婚し家族が増える可能性や、店が繁盛し店舗部分が増える可能性という将来の不確定さに悩んだが、この敷地の環境の変化を、暮らし方に直接結びつけられないかと考えた。1階から5階に向けてだんだんと天井の高さを小さくすると、構造に使う柱と梁もだんだんと小さくなっていく。下の方では天井が高くて窓が小さく、上に上昇していく感覚、上の方では天井が低くて窓が大きく、外に投げ出される感覚になる。18mの高さの徐々に変化する環境の中で、下の方は店舗の鞄をディスプレイしたり、上の方はサンルームにしたりする住宅になった。明るさや景色、音の変化を感じながら縦に暮らす住まい方だ。周辺のビルは同じ部屋が縦に積み重なるだけだが、本作では都市環境で暮らす住まい方の一つを提案できたのではないかと思っている。


3つ目は現在進行中の公共施設「Project A」(2015~)だ。統廃合され、残った小学校の跡地を公共施設にするという都内のプロジェクトで、校舎を社会福祉の施設に、体育館をレクチャーやコンサートのできる場所にリノベーションし、グラウンドに図書館と郷土資料館を新設する計画。

新築部はグラウンドのあった場所を継承する事を考え、なるべく外形をカーブさせた回遊性のあるプランにした。外壁を分割し捲ることで風を取り入れ、校舎と接続廊下を設け、広場へのアクセスできるようにし、開かれた建築となる。屋根は緩やかに起伏し、天井の高いところから低いところまでひとつながりになっている。これにより落ち着いた場所や明るい場所など、様々な居場所を生んだ。

年末に完成し、来年4月にオープンする予定だ。


最後に紹介するのは、「須賀川市民交流センターtette」(2019)という複合施設で、機能は図書館と公民館、子育て支援、ミュージアムだ。敷地は福島県の須賀川市という坂のあるまちで、中央にある目抜き通りに面する。設計は石本建築事務所という組織事務所と協働した。普通無いことだが、経験のある大手の組織設計事務所と発想力のある小さなアトリエ事務所が組むことが、創造的復興をやりたいという市の思いが込められたプロポーザルの条件になっていたからだ。

建物の構成としては、積層したスラブを並行方向にずらし、外部にはテラス、内部には吹き抜けをつくった。それにより機能が垣間見え、交流が生まれるよう考えた。加えて、敷地は坂のまちであるため、1階にそのまま連続させるようにスロープをつくった。コンセプトはテラスや吹き抜けから様々な姿が見えることだ。震災によって人通りのなくなった場所に、象徴となる施設ができることにより、まち全体が元気になるよう思いが込められている。

市民施設の設計の際に行われるワークショップを、約2か月の間に25回行った。これだけ行うと多種多様な意見が出て、「調理室の傍に料理や食育の本が欲しい」「学習エリアには辞典や外国語の資料を置いてほしい」などの機能で諸室を分けるのではなく、横断的に使いたいという潜在的な意見が我々の考え方を変えた。設計当初は、図書館と公民館、子育て施設をプログラムごとに積層する案だったが、図書館では調べるや学ぶ、公民館では作るや食べる、といった活動に分解して考えていった。各フロアにテーマ分けして配置している。例えば、あぞぶ、つくる、まなぶといった動詞的テーマに分けられたフロアに、情報<図書>が配置される。つまり、建物全体が活動の場であり、図書館であるといった“複合施設”ではなく、“融合施設”を設計したということだ。施設管理上の問題が様々生まれてくるため、これまでなかったプログラムだと思う。市の担当の方と全国の様々な先進事例を見ながら、教養を深めたためできた建物になる。

メインの図書フロアから賑やかなエントランスフロアまで、吹き抜けを介してゆるやかにつながっている。ずっと歩いていても行き止まりがない回遊性のある計画をした。音の問題は部分的に吸音をしたり、距離減衰を用いたシミュレーションをして解決した。屋内の遊び場にも図書館の本を置いている。子供たちの様子を見ていると、常に遊んでいるだけではなく、休憩したり、読書を始めたりと、人間の行動はゆるやかにつながっていると感じ、空間もそれが実現できるように居場所を設計した。他には、半屋外のサンルームを78か所設けている。空調のないシングルガラスの空間で、人気がある。外でもない中でもない中間的な場所が、人間にとって重要な場になると思う。明るいところ、暗いところ、天井の高いところから、低いところ、半屋外、内部、外部などの様々な場所をつくることによって様々な人が集まり、交流が生まれることを考えた建築になる。

たくさんつくったテラスは「寒冷地にこんなにいらない」とよく言われたが、水平的な広がりによって生まれる安心感や、すべて地上につながる階段を設け避難動線として重要な役割がある。素材感や家具を変えて、異なる居場所を生んでいる。


最初に紹介したSmall Houseという小さな住宅から、1万㎡を超える公共施設まで設計してきたが、特に須賀川交流市民センターでは建築の持つ公共的な意味合いを考えさせられた。冒頭にも話したが、情報社会やAIが発達するからこそ、様々な人が一同に会せる実空間をつくる意味が問われていると思う。建築設計者として何をするかを常に考えている。分野を横断して協力するチームをつくったり、様々なスタディ方法で検討するのも手である。方法の多様性が次の公共性につながるのではないかと思って私は設計をしている。





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2019年8月23日金曜日

成瀬・猪熊建築設計事務所 住宅内覧会

成瀬・猪熊建築設計事務所設計の住宅内覧会が都内で開催された。
住宅は2世帯住宅だが各戸独立し内部でつながっていない。壁や床の厚みを変化させ、それぞれ趣の違う家となっている。
一階リビングキッチンの天井は開口部に向けて傾斜をしており、軒と天井傾斜によって外部からの視界を抑制しながら、光を取り込んでいる。

広い開口部とキッチン背後の窓から差し込む光で思いのほか明るい。
実際にキッチンに立ってみると、傾斜した天井は視線を程よく遮りながら、圧迫感がない。隣家との間に庭を設け、植栽によってプライバシーの確保と隣家への配慮を両立させた。
 庭に対して開いていた一階とは対照的に、二階は庭を覗き見る形になっている。

2019年8月19日月曜日

戸田建設 アートイベント「TOKYO 2021」開催

戸田建設株式会社は、2019年8月3日(土)から10月20日(日)までの期間で、同社として初めてのアートイベント「TOKYO 2021」を開催中。
左から黒瀬陽平、西澤徹夫、藤村龍至、藤元明、中山英之、永山祐子、森永邦彦、小林彩子、澤畠寿成、前野欽哉(敬称略)
同社主催のもと、アーティスト藤元明氏の総合ディレクション、建築家永山祐子氏の企画アドバイスによるアートイベント。同時に現ビル解体後の新しいビルを紹介する新TODAビル展を開催するほか、同社が運営するTODA農房で育てたいちごを使用したアイスも販売。


総合ディレクター 藤元明氏
総合ディレクターの藤元明氏は「はじまりは『2021』という、2016年に新国立競技場建設予定地の前や様々な場所に木製の2,0,2,1(高さ3.6m、幅10m)のオブジェを設置し、ひとつの風景として収めることで始まった現在進行中のアートプロジェクト。戸田建設に声をかけていただいて、本企画『TOKYO 2021』が生まれた」という。

「共同企画者である建築家・永山祐子と共に、アート、土木、建設のみならず、建築、デザインが一体となっていろいろなことが出来るのではないかと仲間を増やしていった」とし、「建築展は展示物のない空の状態でスタートし、3週間のワークショップを経て24名の学生と戸田建設社員4名、プロジェクトメンバーの13名の建築家と作り上げる。最終日24日に何ができるのか、非常に動的な展示で自分自身楽しみ」と語った。

建築展ディレクター 中山英之氏
建築展のディレクターである中山英之氏は「建築を学ぶ学生は、建築家と同じように家や美術館や駅を建てることが出来ない。だからこそ建築教育の現場で出題される『課題』には、出題者自身の問題意識が反映されることになるし、そこへの応答として練り上げられた学生たちによる架空の設計図は、あり得たかもしれないもうひとつの都市を、時に描きさえもする。各大学で行われるテーブルを外に出して、展覧会の形を借りて広く公開することで、私たちにとっての2021とは何かを問い、描き出そうとする試み」だと建築展の課題について説明する。

課題は「島京2021」。オリンピック・パラリンピック後の東京を考えるために、この20年で小さな地域の集合へと更新された東京の像を「島京」と読み替えるとともに、その将来像を考えるために問いをたてる。

イベント会場に併設して、戸田建築本社ビルプロジェクト(仮称)新TODAビルを紹介する新TODAビル展。「新TODAビルの誕生を皆で祝福する」をコンセプトに、建設会社らしく単管パイプをもちいて御神輿や櫓を表現した祝祭性のある空間の中で、新TODAビルの模型、特区提案概要、新ビル設計コンセプト等の紹介を行う。


建築展同時開催するアンリアレイジ「透鏡2021」は、森永邦彦氏の企画、丹青社の展示制作。「ファッション×テクノロジー」で新たなファッション体験の創造を続けるアンリアレイジと、「空間×テクノロジー」で新たな空間体験の提供を続ける丹青社が、共創プロジェクトとして初めて具現化する。
ミラーボールを、フラッシュをたいて撮影すると・・・


会場では、アンリアレイジによるTOKYO 2021オリジナルグッズも販売する。

建築展は8月24日(土)まで。※8月25日から8月31日までは成果物展示のみ観られる
美術展は9月14日~10月20日。

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