人間・時間・空間それぞれの間合いという、日本特有の概念を表象する「間」の一字を名称とした「TOTOギャラリー・間(ま)」は、社会貢献活動の一環としてTOTOが運営する、建築とデザインの専門ギャラリー。
1985(昭和60)年10月の開設以来、国内外の建築家やデザイナーの個展にこだわり続け、今回、評論活動や教育活動に加え、近年では市民を巻き込み、現代に即した開かれた建築のあり方を模索する建築家・藤村龍至氏の「ちのかたち――建築的思考のプロトタイプとその応用」を開催。
内覧会当日は藤村龍至氏から30分間の挨拶及び趣旨説明が行われた後、実際に展示を見て回る20分間の会場ツアーが行われた。
3F|Timelines|タイムライン
ROOM_TL
ROOM_TLは、時系列を伴う「ちのかたち」を示す「タイムライン」についての展示である。
個々の作品の設計プロセスにおいて、知識を形態へと転換し、形態に転換された知識を見て得た新しい知識をもとに次の形態を得る、というサイクルが反復されていく様子が見て取れる。さらに、歩んできた軌跡の全体を眺め直すことで、その行為の目的を事後的に推し量ることができる。
「BUILDING K」2008
東京都内の商店街に計画された集合住宅と店舗からなるビル
展示は圧倒的量の模型と動画。
全てのプロセス模型はプロジェクトごとに数字が振られ、
アーカイブできるようにされている。
「すばる保育園」2018
福岡県の郊外に移転新築された保育園で藤村氏最新作
3F|Marchés|マルシェ
ROOM_MA
ROOM_MAは、社会の課題解決のための「ちのかたち」としての「マルシェ」についての展示である。
埼玉県でシティマネジメントに携るなかで見えてきた、超高齢といったニュータウンが抱える社会的課題を解決し、活性化するためのふたつの家具が展示される。
展覧会会期中にこの空間でマルシェを開催し、現場での取り組みが紹介される。
会期後、中庭の家具と会場で使用されたテーブルは、鳩山ニュータウンの「鳩山町コミュニティ・マルシェ」と椿峰ニュータウンで開催される「つばきの森のマーケット」に実装される。
「離散空間家具T」2018
椿峰ニュータウンのマルシェでコーヒーやお菓子類の販売スタンドとして使用予定。
冷蔵庫の大きさ(w600×d600×h1800)で収納できるため簡単に運搬が可能。
「離散空間家具H」2018
鳩山ニュータウンにある公共施設で衣類や小物の販売スタンドとして使用予定。
スチールパイプを曲げ加工して溶接された連続体で底面の取り方で3種類の使用が可能。
4F|Discrete Space|離散空間
ROOM_DS
ROOM_DSは、これからの「ちのかたち」を予見する「離散空間」についての展示である。
「これからの現代の公共空間がいかなる構造をとりうるか」という根源的な問いに応えうる空間モデルとして、持続可能性と切断可能性が共存する離散空間をデジタルファブリケーションによって制作。
細分化された空間が時に接続され、時に切断されたように感じられるように構造体を連続。
堀川淳一郎氏の協力により設計された「Deep Learning Chair」はこうした空間の制作手法のプロトタイプとしてその一角に展示されている。
「離散空間家具G」
ひとつながりになった構造体は8種の映像に蛇行しながら向かわせる動線の役目も
7000ピースの厚紙と1万数千個のハトメからなる27本の柱。
弱いチューブ状だが節々にダイヤフラムが介入し成り立っている。
「Deep Learning Chair」2018
Google画像検索で得られた世界上位9か国語の「椅子」の画像データを
類型化した上でモデリングし、パラメータを変化させて生成された
「椅子」のかたちのデータセットをもとに深層学習によって椅子の形態を再構築したもの
趣旨説明・会場ツアー
「大学院から建築を勉強し始めた私は、人より設計を自覚的に学ぶ必要があった」と始め、やがて設計とは、今知っていることを素早く「かたち」にすること(プロトタイピング)と、かたちにしたものを「ことば」にして新しい知識にすること(フィードバック)を繰り返すことだと学んだと続けた。
「当初は家の形や倉庫らしい形、小屋らしい形といった記号的なアプローチで行っていたものがだんだんジオメトリなものへ、といった私の取り組みの変遷を示しています」と「ちのかたち」というコンセプトについてポスターに用いられた写真を元に説明。(下図:TOTOギャラリー・間より)
©Gottingham
一般的に設計プロセスにおけるインプット(知識)とアウトプット(形態)との関係は、多数の知識を一度にインプットし、設計者がそれらを統合して、ひとつの形を導く(fig.1)。
fig.1|一般的なプロセス |
もし多数の知識のインプットを一度分解し「ひとつの新しい知識」について「ひとつの新しいかたち」を与えることを徹底して反復する(fig.2)と、統合の過程はよりよく可視化されていく。
fig.2|超線形的なプロセス |
現代は構造解析、音響解析、温度解析など解析技術の進化により、個々の知識は透明になったが、それらと形態との関係は依然としてブラックボックスのままである。
「これを非暗黙的に解決できないかというのが私の問題意識」だとし、「ひとつの入力に対してひとつの出力をするということをひたすら繰り返していくとインテグレートなプロセスがもっと見えるようになっていくのではないか」と強調した。
通常単線で行う検討(fig.3)を複線で行う場合(fig.4)、比較による相互作用が生まれる。その際、検討する項目をあらかじめ適度に整理しておくと、複数の案の相互比較がよりしやすくなる。
fig.3|単線の進化的プロセス |
fig.4|複線の進化的プロセス |
さらに、検討を複線で始め、有益な競争を生じさせた上で類型化を行い、段階的に統合してひとつの形態を導く(fig.5)と、そのアウトプットは「集合させた知識を最も効果的に統合した形態」に近づく。丹下健三「国立代々木競技場」の群像プロセスを例に挙げ、「建築の「ちのかたち」というのがどうやって形作られているのかを解き明かしていきたい」とした。
fig.5|進化的かつ統合的なプロセス |
鶴ヶ島太陽光発電所環境教育施設では、大学院生10名の案を住民に公開しながら設計を行うなどの試みもしている。
「鶴ヶ島太陽光発電所環境教育施設」2014
『ちのかたち――建築的思考のプロトタイプとその応用』
会場入り口手前には8月21日に発行を予定されている
藤村氏最新の建築作品・論考を収録した書籍の見本がこれも時間軸に沿って展示。
理論から実践まで連続した彼の活動を概観できる本展示は9月30日(日)まで。
8月9日(木)には藤村龍至講演会「ちのかたち」が開催される。
詳しくは、こちらを参照のこと。
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