建築設計事務所studio9Xは、建築家・宮脇檀が住宅地計画から関わった東京都日野市の「高幡鹿島台ガーデン」に建つ築約30年の住宅を再生するプロジェクト「日野の家―宮脇檀住宅を住み継ぐ」が2026年7月下旬に完成した。
高幡鹿島台ガーデンは1985年に宮脇檀建築研究室と鹿島建設が計画した全54区画の住宅地で、住宅だけでなく道路や広場、植栽、街並みまでを一体的に設計した住街区として知られる。歩行者を優先したボンエルフ道路や街区内を巡るフットパス、住民同士の交流を促すポケット広場、景観形成のための建築コードなどを導入し、建築家がデザインした先進的な住宅地の事例として高い評価を受けてきた。
△宮脇氏による本物件のドローイング
今回再生された住宅は、その住宅地の一角に建つ宮脇設計の一棟で、30代の子育て世帯の新たな住まいとして改修された。設計を担当したstudio9Xは2024年に活動を始めた建築設計事務所で、建築設計に加え、建築を社会へ実装するプロセス全体を視野に入れた取り組みを進めている。施工はNENGO、建築不動産コンサルティングは創造系不動産が担当した。
プロジェクトの発端は、一組の家族による住まい探しだった。日野市周辺で約1年半にわたり新築住宅を含めて検討していた家族が出会ったのは、緑豊かな公園に面し、その景観を大きな開口部から室内へ取り込む中古住宅だった。調査を進める中で、この住宅が宮脇檀による設計であることが判明したという。設備の老朽化や経年劣化が見られたものの、空間構成や細部の納まりには現在でも色あせない魅力が残されていた。
一方、ホームインスペクションでは建物基礎の沈下も確認された。一般的には購入を見送る判断につながりかねない状況だったが、関係者が建物の状態を詳細に調査し、補修方法や工事費、将来的なリスクを整理した上で検討を重ねた結果、建て替えではなく改修によって住み継ぐ道を選択した。
改修では、建築家住宅の価値を構成する空間設計や光の取り込み方、素材の使い方といった思想を尊重しながら、現代の生活に必要な性能や機能を加えた。浴室やキッチンなどの設備は更新して耐久性や維持管理性を高める一方、建具や造作家具、金物など建築当初の職人仕事が感じられる部分は可能な限り保存・再利用している。以前の住まい手が好んだ落ち着いた空間の魅力を残しつつ、子育て世帯が暮らしやすい明るさや素材感へと調整を施した。
宮脇檀は、住宅設計だけでなく住宅論や都市論でも大きな影響を与えた建築家で、「住まいは建物単体ではなく街並みや周辺環境との関係の中で豊かになる」という考え方を提唱した。高幡鹿島台ガーデンはその思想を体現した代表的な住宅地計画として位置付けられている。
人口減少や空き家の増加が進むなか、既存住宅ストックの活用は社会的な課題となっている。建築家住宅についても、相続や老朽化などを理由に解体される事例は少なくない。今回の取り組みは、建築家住宅を単に保存対象として扱うのではなく、実際に暮らし続けられる住まいとして更新しながら価値を継承する試みであり、既存住宅ストックの活用と住環境の継承を両立する一つのモデルケースとなりそうだ。
創造系不動産
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