エクスナレッジは文化遺産の新たな体験価値を提案する書籍『異世界図鑑』を出版した。NPO法人J-heritageの代表を務める前畑洋平によって、産業遺産や廃墟が持つ圧倒的な景観を通して、文化遺産を「見るもの」から「体験するもの」へと再定義する内容となっている。
これまで文化遺産は、保存や学習の対象として整備され、価値が伝えられてきた。一方で、過度に整えられた空間では得がたい没入感が存在するのも事実だ。前畑氏は、産業遺産や廃墟が醸し出す非日常的な景色こそが、人を過去へと旅させる装置になり得るのではないかという問いを出発点に、本書を構想した。そこでは、時間の痕跡を色濃く残す空間そのものが、文化遺産の価値を体感させる媒介として位置づけられている。
本書に収録されているのは、日本各地に実在する産業遺産や廃墟など全45件。巨大な構造物、崩壊の途上にある建築、自然と溶け合うように存在する景観など、長い時間の堆積が可視化された空間が紹介されている。これらは単なる記録写真ではなく、訪れる者に異世界に迷い込んだかのような感覚を呼び起こし、過去と現在を往還する体験をもたらすものだという。大阪市の安治川トンネルや、横浜市の根岸競馬場一等馬見所など、かつての社会や産業を支えた場所は、役割を終えた後もなお、独特の存在感を放ち続けている。本書は、そうした風景に宿る価値を掘り起こし、文化遺産を巡る新たな観光や体験のあり方を提示する。
前畑氏の取り組みが重視するのは、観光の軸足を「知識の提供」から「没入体験」へと移す視点である。文化遺産は保存だけでなく活用と一体で考えられるべきであり、現地に足を運ぶことで初めて立ち上がる価値があるとする考え方が、本書全体を貫いている。『異世界図鑑』は、こうした思想を社会に広く共有するための媒介でもある。
書籍で紹介される“異世界の風景”は、いずれも実在する場所だ。読者がページをめくり、やがて現地を訪れ、空間に身を置くことで過去を体感する――その行動のきっかけとなることも、本書の狙いの一つとされている。
































