手塚建築研究所の設計による《
茅ヶ崎シオン・キリスト教会/
聖鳩幼稚園》を見学。教会礼拝堂と園舎の2つが楕円形の建物のひとつ屋根の下に。
構造は木造(構造:
オーノJAPAN/大野博史)、施工は
(株)佐藤秀。
道路(一中通り)とは反対側の出入り口・階段上からの見下ろし。手塚作品で楕円形の幼稚園といえば、2007年の《
ふじようちえん》を思い浮かべるが、今回はドーナツ状の園舎の中心に(緑の芝生ではなく)教会礼拝堂が在る。
保育室。床はパイン材無垢フローリング。天井仕上げは杉材。
園児用ロッカーと遊具入れのBOX家具は
(株)E&Y/松澤剛氏がデザインを担当。
照明計画は、
ぼんぼり光環境計画/角館政英氏が園舎と礼拝堂を共に担当。
園庭に面して、大判の木製建具がぐるりとめぐらされている。《
ふじようちえん》で培ったというコーナーリングと納まり。
建具ガラスの各所には、年少、年中、年長の3学年あわせて5クラスを表わした花が描かれている。
クラスサインのデザインは、NHK-Eテレの教育番組「
にほんごであそぼ」で衣装・セットデザインを手掛けている
ひびのこづえ氏。
手洗い・足洗い場。
内部見学が許された遊戯室付近の外観。
キャスター付き円卓の上には「おともだち」の名前が平仮名で描かれたピンクと青の紙。何の用途か確認し忘れ。
小さい園児用トイレのブースは各クラス内の5カ所に配置。これなら急にモヨオしてもすぐ駆け込めるから安心。
幼稚園エントランスの建具ガラスに描かれている樹。白と青の葉がよく見ると鳩のかたち。
階段で屋根の上へ。
屋根の面材はウリン材。
屋根に設けられたトップライト、室内からの見上げ。
茅ヶ崎シオン・キリスト教会の
facebookに拠れば、外壁に取り付けられた十字架はコールテン鋼に特殊な塗装をしたもので、背にした木材が経年変化と共に灰色になっていくのに対し、十字架の色は逆に深みを増していくとのこと。
当初は教会と幼稚園園舎を905平米の敷地内に別棟として建てる計画だったが、どうしても園庭が狭くなってしまう。そこで、教会を中心に据え、園庭は建物の外にめぐらせ、屋根の上でも走り回れるようにした。
手塚事務所が宗教建築を手掛けるのは、2007年の《
高野山真言宗 歓成院 大倉山観音会館》以来二度め、キリスト教施設では今回が初。
教会礼拝堂に入って真正面、来場者を迎える十字架。信者でなくとも感じ入り、嘆息。
十字架の上のトップライトは、遮熱塗装を施した1枚ガラス。
壁の仕上げは幅20mmの杉材縦羽目貼り
ピアノの生演奏が聞こえ、音源を辿ると、なんと設計者の手塚貴晴氏。
トップライトからの自然光だけで十分に明るい礼拝堂内。
日が落ちて、天井から吊るされたレフランプを灯すと、上方の空間は暗く、下の方に光が溜まり、昼と夜とで全く異なる雰囲気になるとのこと。
教会礼拝堂入口付近の天井見上げ。夜間に十字架をシンボリックに照らす小型のLED照明が2箇所に付いている(画面上部やや左)。礼拝堂は横に長い楕円形だが、実は正楕円ではないとのこと。
見学者の質問に応える手塚氏。
この空間において、手塚氏が最もこだわったのは音響である。設計に際し、礼拝に立ち会った手塚氏は、説教をする側の牧師さんと、聞く信者達と距離がとても近く、フレンドリーだと感じたという。両者のこの親密な雰囲気、距離感を大事にすることを第一に考え、最大で120名もの人数が入れる礼拝堂で、牧師さんがマイクを使わなくとも生の声が聞き取れるようにした。
その為には、残響時間を短くしなければならない。そこで、FL(フロアライン)から1200より下は吸音率を高く、それより上は吸音率を低くした。その結果、時間差で音が落ちて来る、「普通の教会とも音楽ホールとも異なる音響空間」が誕生した。技術協力は
(株)永田音響設計。
FL+1000前後の境界部分。
幅20mmの材と材の隙間に吸音材が見えている。
楕円の端からの見上げ。厚み20・22・24・26mmと異なる4種の杉材、その数なんと2万本! これを1本1本、気の遠くなるような作業で貼っていったのは、たった一人の職人さん。手塚氏は「これまでで最高の職人さん」と絶賛。所要は約2か月。
仕上げの杉材について、グレードはやや劣るものの、値段は安い材を敢えて採用したのも大きな特徴。そのうち状態の良いものを選んではいるが、華美装飾を嫌い、質素倹約を旨とするプロテスタントの施設ならでは。「住宅など通常の設計では出来ないデザイン。お金はかけずに、だが教会として神聖な雰囲気は醸し出せていると思う」と手塚氏。
礼拝堂の前方、十字架の下には大理石の洗礼槽。
床は石英岩を切り出したもの(サントメクォーツ)で、色の違う幾つかを舗装。表面に凹凸があるように見えるが、歩いても靴先に突っ掛からない。「100角のピンコロだと大丈夫」と手塚氏。礼拝堂に並ぶ桐製ベンチを動かしても材を傷めない。また礼拝堂の出入口付近の木の床下には空調機があり、大理石の床下に暖気を流す。
ベンチは開発に2年を費やした労作。手塚氏が娘さんと折り紙をしながら思いついたという。桐の無垢材で、女性二人で持ち運べて、かつ安定感があり、マトリョーシカのように重ねられる。オープン前に試作品を置いて、座り心地を実際に確かめてもらったり、検討に検討を重ねた。
この4月で創立60周年を迎える「
聖鳩幼稚園(みはとようちえん)」と共に、教会もまた1953年以来、地元に密着して活動してきた。2つが一緒になったこの建物が、周辺地域との結びつきをさらに深めるような役割を果たせればと、手塚氏は設計者として願っている。