2019年6月14日金曜日

台所見聞録-人と暮らしの万華鏡-

LIXILギャラリーにて開催中の「台所見聞録-人と暮らしの万華鏡-」へ。

住まいに欠かせない、生きるための空間「台所」。食物を扱うため、その土地の気候風土や文化とも密接に関わり、また働く場として機能性を求めた変化もみられる場所。
本展は、建築家と研究者による調査研究を見聞録に見立て、世界の伝統的な台所と近代日本における台所改革の様子を、再現模型や図版、日本の家政書など約90点の資料で展観し、人々が求めてきた理想の台所像を再考する。

宮崎氏の訪問した主な台所<伝統的な鍋の使い方の分布>

建築家の宮崎玲子氏は、世界の伝統的な台所を約半世紀にわたり調査し、これまで訪れた約50ヶ所の記録を世界地図にプロットすることで、北緯40度を境に南北で「火」と「水」の使い方に特徴があることを見出した。
北は鍋を吊り、南は鍋を置く文化圏であることに加え、北では水を使うことが少ないので流しが主役にならず、南では洗う頻度が高いため台所では大量の水を使うことを前提にした設えになっている。この違いは気候風土によるもの。

また、宮崎氏のもう一つの大きな成果物は、調査後に制作された各地域の伝統的住まいの模型(1/10)。
<ドイツ フランケン地方の小作人の家>
北の国の冬は寒くて暗いため、暖かくて明るい火の設備が家の中心に据えられる。

<ネパール カトマンズ地方の農家>
ヒンズー教徒にとって台所は神聖な場所で、最上階に位置する。

<インド タミル地方の商人の家>
南の国では火を焚き続けると暑いため、制御に神経を使う。そのため、火を使う台所には神様が祀られ、神聖な場所とされている。

<ロシア カレリア地方の労働者の家>
ペーチカ(暖炉)で室内全体を暖かくする。
鍋の載った台所のペーチカは隣家と二分して使い、背面で隣室の寝室も暖まる。

<北極圏 イヌイットの雪の家>
カットした雪を丸く積む家・イグルー。台所は外。
 
<日本 武蔵野の農家>
関東では土間を「台所」と呼び、調理場を「勝手」「勝手元」などと呼んだ。

日本の台所は、明治・大正・昭和にかけて、激変する。

神奈川大学特別助教の須崎文代氏は、西洋の影響を受け急速に近代化された台所について、高等女学校の「家事教科書」に着目、収集し、実証的に研究した。その研究から「立働」「衛生」「利便」という3つの理念が当時の台所改革のテーマであったことを確認。


世界各地の伝統的な台所に目をむけた俯瞰的見聞、日本の近代という時間軸で捉えた台所見聞の記録は、人の暮らしに必要不可欠な空間における適材適所の多様性と人々の創意工夫の積み重ねがあることを私たちに伝える。


<建築家の実践>
台所空間の近代化の一端を担った欧米、日本における建築家らの実践例を紹介
<ミース・ファン・デル・ローエ「ファンズワース邸」>
台所空間はガラスを透した外部の自然と一直線に配置された設備がパラレルに対峙する。
<菊竹清訓「スカイハウスのムーブネット」>
台所、風呂、トイレの諸設備が生活の変化に合わせて更新が可能な「ムーブネット」としてデザインされた。

明治以降、台所空間は「明るく」「換気良く」「掃除に便に」という目標が掲げられた。このような状況下で生まれたのがステンレスの流し。ステンレスは錆に強く、耐久性があることから戦前期より国内外の流しの素材に使用されてきた。日本では、技術革新によって溶接しない一体型の深絞り加工が開発され日本住宅公団に採用される。

<公団用のステンレス深絞り流し台>と<1952年ごろの仕様書>

大正から昭和の初めにかけては、タイル、人造石、ガラス、コンクリート、リノリウムなどが新素材として台所空間の内装の主役となっていく。流し台としては、「公団流し」が一般的になるまでは金属板や人造研ぎ出しの流し、通称「人研ぎ流し」も多く見られた。

<人研ぎ流し>と<伊奈の内装タイルカタログ>

人間工学の導入により、人体寸法へ対応される台所
理想の台所を求めて、古今東西に広がる小さな空間へと誘う本展は8月24日(土)まで。
詳細はこちらを参照のこと。

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