2026年4月15日水曜日

【日本建築学会】日本建築学会賞(作品)受賞作品決定

 一般社団法人日本建築学会より、日本建築大賞、日本建築学会賞(作品・技術・論文・業績)ならびに、日本建築学会作品選奨が発表された。
日本建築学会賞(作品)は、主として国内に竣工した建築の設計(庭園・インテリア,その他を含む)であって、技術・芸術の進歩に寄与する優れた作品に与えられる。 
本年は63作品の応募があり審査を通過した8作品の現地審査を経て「屋島山上プロジェクト」「霞ケ浦どうぶつとみんなのいえ」「金沢美術工芸大学」 の3作品が、2026年 日本建築学会賞(作品)に決定した。

屋島山上プロジェクト 
周防 貴之(㈱SUO代表取締役)
 Photo:©Laurian Ghinitoiu
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かつて多くの観光客が訪れた屋島。その美しい風景は今昔不変であるのに、短期的栄枯を一度経験しただけで勝手な烙印を押し付けられる、日本各地にあるそのような風景に新たな方向性を見出すプロジェクトである。雑な言い方をすれば、公共発注による新築展望台と隣に古くからあった民間茶屋の改修であり、運よく同一の設計者が手掛けることができた。この偶然を「地形」というアプローチで解くことにより必然に昇華した強い建築が作られた。 

「やしまーる」は、起伏のある地形に蛇行した通路のような建築を環状に置くことで、内部を散策する衝動を生みだしている。レベル差とガラス越しに感じる中庭広場のアクティビティは、人と人との適度な距離感を生み出す。最頂部に位置する展望スペースは、テラスと一体となったさりげない設えとなっており、そこから見る晴天の瀬戸内海は壮観である。展望台からの遠景、人々の活動としての近景を統合する場を建築という装置を通して創出する、設計者の想いや意図が見事に表現されている。 

プロダクトとしての価値も非常に高い。建築界においては形而上学的設計手法の新規性、脅迫的コミュニティが評価される一方、フィジカルによる場所の価値向上が軽視されてきた感があるが、この懸念を払しょくする痛快な建築である。複雑な立体モデルは簡単に構築できるが、建築技術の停滞、コスト高騰などにより製作するハードルが上がり続ける昨今において、ガラスや構造躯体の納め方、施工クリアランスの取り方、これらを施工者に伝達する巧みさなどは、設計者の鍛錬の賜物であり敬意を表したい。さらに、現代美術家との協働を経てきた設計者の経験が現れた、常設された作品のキュレーションや、そのための展示空間の作り方も巧妙である。 

一方の「れいがん茶屋」は、一見すると乱暴にも思える改修方法が、新築と改修、公共と民間という違いによって生まれる差異を表現するとともに、その根底にある地形に対する考え方が同一であることを示している。そのことに気づくと、この2つが不可分な一体となった建築であることが理解できるだろう。起伏した建築の散策、遠景と近景の統合が共通するだけでなく、まったく異なる現れ方で、フィジカルによる場所の価値向上が目指されているとも言える大胆な改修である。その意味では、この2つの異なりつつも同じ建物を1つのプロジェクトとして実現させたことに、現代的な建築のあり方を体現した設計者の力量を感じ取る。 よって、ここに日本建築学会賞を贈るものである。 ※2026年日本建築学会賞(作品)選考経過より

霞ケ浦どうぶつとみんなのいえ 
髙橋 一平(髙橋一平建築事務所) 
Photo:©TAKAHASHI IPPEI OFFICE
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日本建築学会賞(作品)の規定に「新たな建築の可能性を示唆するもので、時代を画すると目される優れた作品を対象とする」という一文がある。霞ケ浦どうぶつとみんなのいえは、まさにこれに該当する意欲的な建築だろう。まず、既存のビルディングタイプではない。そもそも、科学館を本格的に動物たちの空間に転用するプロジェクト自体、ほとんど類例がない。これは調査研究を行う、いわゆる動物園ではない。動物とのふれあいを通じた観光交流、学び、地域住民のための場である。この施設は、PFI形式の再生事業によって生まれたものだが、設計者はプロポーザル段階の企画から深く関与し、キリンを入れることなども事業者に提案し、新しい環境の特徴を決定づけることに貢献した。 

デザインとしては 旧施設の解体と増築を行い、外部と内部、動物と人間、新築とリノベーション、自然と人工などの境界を曖昧にしている。例えば、かつて内部だった部屋は、あちこちで壁や屋根が除去され、外部化された。室内である図書館にはフクロウがいて、広間では人間と動物が檻で隔てられることなく、共存する。リノベーションのように見える高さ13mの受付棟は、実は新築だ。施工の仕上げは意図的に粗いことを許容し、新旧の判断を迷わせる。完成の段階は宙吊りであり、オープン後も動物のエリアをいろいろと調整し、変容が続く。従来の建築計画の概念からも逸脱している。また動物の居場所を整えるために、集めた流木を設計者が組み合わせたり、飼育者によるセルフビルドの造作が行われた。かくして人工的な環境は、動物にとっての新しい自然になっていく。また野鳥や野生の動物が場所を見つけて、棲みつくことも想定している。 

モダニズム、あるいは倉庫や工場のリノベーションはもうめずらしくないが、ポストモダン建築の増改築は今後重要になるだろう。さらに本作はポストモダンの否定でもなく、ポストモダンの過剰さの増幅でもなく、その廃墟において多様な動物が共存するという異次元の体験をもたらした。とくに部分的に解体された大階段にいるヤギは、印象的な場面だろう。やや誇張するならば、かつて人が使っていた建築に動物が野放しになった風景を描く、SF映画のシーンを想起させる。ともあれ、霞ケ浦どうぶつとみんなのいえでは、動物の棲み家になった既存建築に、われわれが足を踏み入れることで、気づきがもたらされる。設計者は未来を志向する強靭な建築論を背景にこれを構想し、高い解像度によって、そのヴィジョンを実現した。よって、ここに日本建築学会賞を贈るものである。 ※2026年日本建築学会賞(作品)選考経過より

金沢美術工芸大学 
日野 雅司(㈱SALHAUS共同代表/東京電機大学教授) 
川口 有子(㈱カワグチテイ建築計画共同代表) 
仲   俊治(㈱仲建築設計スタジオ共同代表/東京都立大学准教授) 
撮影:吉田 誠
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伝統工芸が息づく金沢において、美術・工芸・デザインを学ぶために80年前に設立された公立大学が、2度目の移転により再整備を行ったキャンパスである。その新たな教育・研究・創作のための場として、美術・工芸・デザインの各分野を閉ざすことなく、科を横断して利用可能な「共通工房」を設けている点が特徴である。多種多様な作業をサポートする工房群は、ガラス壁で隔てられた廊下から内部を覗き込むことができ、そのガラスに施された室内の機材・道具を示すグラフィックと相まって、学生間の技術を媒介としたコミュニケーションを生み出す創作の場となっている。また、展示・発表の場である「アートコモンズ」が、多様な発表形式に対応する設えを持って分散配置されており、ここでも分野を横断したコミュニケーションを生み出すことが意図されている。 

一方で、学内の関係だけでなく、地域住民も通り抜けが可能となる「アートプロムナード」を校舎内に貫通させ、そこに面して複数のアートコモンズを点在させることで、地域と作品のコミュニケーションをも生み出している。そこには、金沢の伝統的な街路に見られる「広見」を参照した2つのプラザがあり、それぞれが個性を持った活動の場となっている。このプラザには明るさを確保しながら雨天・積雪時にも利用できるように、場の性格に合わせた異なる構造形式を持つガラス屋根が架かっている。積雪対策、水平ブレース廃止、本体建物との接続方法など、構造計画に工夫が見られる屋根であり、キャンパス計画の大きな特徴である広場の価値をより一層向上させている。さらに外周においても、視覚的にはランドスケープによって柔らかく周辺と切り離しながら、遊歩道が巡る芝生のグラウンドを設けることで地域住民の憩いの場となっている。隣接する辰巳用水の修景整備も行い、周辺地域に馴染んで開きながら、大学本来の役割である閉じた集中の場を創意した秀逸な計画と言える。 

また、3つの設計事務所の協働において、スケルトン・インフィル・ファサードの3つの要素に分け、その分担の境界を意図的に混ぜることによって、多声的でありながらも統合された複雑な校舎を実現している。そのチームビルディングにおける方法論は、ヒエラルキーを持たずに全員が全体と部分へ同時に関与できる現代的な協働のあり方であり、それを組み立て得たこのチームならではの成果が生まれている。よって、ここに日本建築学会賞を贈るものである。 ※2026年日本建築学会賞(作品)選考経過より



一般社団法人日本建築学会
https://www.aij.or.jp/

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