2018年10月22日月曜日

【建築家フォーラム】番町教会見学会

建築家フォーラムが開催する番町教会見学会へ。
建築家フォーラムとは、「むずかしいテーマをやさしく やさしいことを深く 深いことを面白く」という思想のもと、
建築に係る実務を行う人々の専業・兼業を越えた相互交流と資質向上の促進を通じて、国際的に認知され得る資格としての建築家(ARCHITECT)像の確立と育成を図り、以ってわが国の建築文化・行政の進歩改善に寄与する
ことを目的としている交流の場である。

第171回である今回は、今年2月に竣工した手塚建築研究所による千代田区の「番町教会」の見学会。
敷地面積429㎡、建築面積299㎡、延床面積607㎡。鉄筋コンクリート造地上3階建て。
1階に礼拝堂とホワイエ、2階に集会室と厨房、3階に牧師住居から構成される。

見学会当日は設計を担当した建築家手塚貴晴氏(手塚建築研究所)から1時間の案内があった。
△駐車場と礼拝堂を繋げる開かれたホワイエ
「番町教会とは戦前、遠藤新氏設計の礼拝堂として使われていた創立132周年を迎える由緒ある教会で、日本の教会の中ではかなり古い歴史がある」と始め、気が引き締まる想いで設計にあたったと続けた。

教会側から依頼されたOpen for allという「まちの中で隠れる存在ではなく、色々な人を招き入れて、色々なことをまちのためにできる教会にしよう」をコンセプトとし、礼拝堂の前に開放感のあるホワイエが設けられた。
まちの広場のように開かれ、様々な出会いの場になるという願いが込められている。

礼拝堂以外は天井が2.3mと低めの設定。
礼拝堂とのコントラストが出ているし、親しみのある空間になっている印象。

天井は天高をなるべく抑えるため昔ながらの不燃断熱材の吹き付け仕上げ。「指で刺して穴を開けないでくださいね、建築家は触りたがる」と会場の笑いを誘った。
なお照明はコンクリートに直接埋め込まれ配線されている。
ホワイエにある家具は手塚建築研究所で設計した物で、桐材でできている。
「大事なことはお年寄りでも軽く持てること」とし、実際に持ってみたり、重ねた様子を見せた。なんと2階から落とす実験にも耐える強度を持つそう。
礼拝堂へ続く扉は決定まで1年悩んだという。
30か国以上500を下らない教会を見てきながらも、「礼拝堂の扉には裏と表があるということに最近気づいた」とし、内側と外側のしつらえを変えている。
検討作業のために作った模型は10枚以上、1/1の原寸模型も作成した。
礼拝堂では11月に据え付けられる予定のパイプオルガンの雰囲気を出すためか手塚氏のiPadからオルガンの音を流すという計らいが。後に自身がピアノの演奏もしてくれた。

教会では音が大事ということで残響時間やフラッターエコーの軽減を目的に礼拝堂の正面と、左右の壁はそれぞれ異なる傾斜が付いている。
△2度の傾斜の壁
△4度の傾斜の壁
△十字架は既存のものを移転してきた
△手塚建築研究所オリジナル
内外は左官仕上げ。
祖父の代から続く左官職人・久住有生氏の仕事で、途中で止まると線が入ってしまうためほとんど飲まず食わずで朝から夕方まで一切休みなしの作業になった。
一面の出来が良くないということで全部掻き落としてもう一度塗りなおしになったという職人の意思の硬さを目の当たりにすることもあったそうだ。
礼拝堂の壁には幾つかの窪みがある。
出どころは設計中に訪れたイストニア半島にあった教会で、1400年の歴史のある窪みだった。その小さな穴には人の思いが色を為して蜘蛛の巣のように籠っていて、本教会でも踏襲することにした。
この窪みは単なる照明ではなく、「クリスマスにはヤギやカードなどでも入れて可愛がっていただきたい」とのこと。
天井にはリズミカルに穿たれたトップライトが。
これは紀元前2300年ごろに建てられたエジプトのデンデラ神殿から着想を得たそう。「いつか実現したい」と見て以来20年温めていた天空の光の柱が、午前中の礼拝の時間に見られる。これは「天使の梯子」と呼ばれている。

よく見ると3つだけ色がついているのに気づく。
これはステンドグラス作家の井上千恵美氏による制作で、三位一体など宗教的な意味がある。
2階は集会室と厨房、多目的室が配される。
L字型のバルコニーとそれに沿った開口部は引き戸。
こだわりの雨どい。パイプを用いて隠すことも可能だが、今回はあえて「雨の道」を魅せることを選んだ。あるべき姿で時を刻んでもらいたいという願いが込められている。
教会は100年200年と引き継がれていく超越の存在である。
本教会の設計にあたっての「最大のテーマは歴史である」とし、壁や床が汚れてくるとどうしたらいいかと問い合わせが来るが「気にしないでください。少々の小じわや染みは威厳だと思っていただければ」と答えているという。

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*基本データ
主要用途:教会・住宅
構造:鉄筋コンクリート造
敷地面積:428.98㎡
建築面積:299.45㎡
延床面積:606.75㎡
規模:地上3階


建築設計:手塚建築研究所/手塚貴晴+手塚由比/担当:島田真弓・寺田和彦
構造設計:オーノJAPAN/大野博史/担当:藤田竜平
音響設計:永田音響設計/担当:箱崎文子
照明計画:ぼんぼり光環境計画/角館まさひで/担当:竹内俊雄 

施工:佐藤秀/担当:上田佳宏
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