2017年12月11日月曜日

「(仮称)弘前市芸術文化施設」が2020年度開館に向け本格始動、建築・改修担当は田根剛氏。

1127日(月)、青森県弘前市が推進する吉野町緑地周辺整備等FPI事業に関する記者発表会へ
▲本プロジェクトの中心となる煉瓦倉庫
1階建て(左)と2階建て(右)の2棟から成る

本事業は、JR弘前駅と弘前公園の中間に位置する吉野町煉瓦倉庫と緑地において、交流人口の増加や回遊性の向上による賑わいの創出、そして文化的なアイデンティティを支える拠点として、現在進行形のアートや土地に根差したアートを発信し、夢ある未来の基盤を官民連携によってつくる美術館を核とした文化交流施設「(仮称)弘前市芸術文化施設」を整備するもの。カフェ、屋外広場、視点場、メモリアルドッグなどを効果的に配置し、豊かな緑地と赤煉瓦倉庫を体験できる一体的な計画で、弘前市の行事と連動した屋外イベントや雪深い冬の季節にも屋内大空間でのライブや映画上映会を可能にするなど、弘前の四季を通じて楽しめる美術館にしていく。
▲左から南條氏、葛西市長、平出氏、田根氏

この日は市長の葛西憲之氏、複数企業の共同出資により設立された弘前芸術創造株式会社の代表取締役・平出和也氏、本事業の総合アドバイザーである南條史生氏、そして建築家の田根剛氏ら4名による事業の概要説明と見学会が開催された。
▲見学会の様子
ライブラリーに改修予定の空間を解説する南條氏と田根氏

煉瓦倉庫は、戦後、リンゴを原料としたシードルを日本で初めて生産した場であり、また近年では、弘前市出身の芸術家・奈良美智氏が展覧会を行なった場としても知名度の高い建物。「赤煉瓦倉庫の魅力を最大限活用し、現代アートのクリエイティブハブをつくること」を運営方針に掲げ、弘前市に残る吉野町煉瓦倉庫の改修と(仮称)弘前市芸術文化施設の創設という一連のプロジェクトを通して、「アートの感動を弘前にもたらし、人々が創造性の喜びへと向かう一連の流れをつくり出すこと」を最大のミッションとしている。
▲奈良氏の作品「AtoZ Memorial Dog」

美術館運営の基本コンセプトは「つくること、みせること、そして収蔵して歴史に残すこと」。世界中から新進気鋭のアーティストを招聘し、滞在させ、地域の人々と交流しつつ先端的な作品を制作してもらうという、今までになかったシステムを構築するという実験精神に満ちた多様な表現の可能性を示す。作品の制作現場と展示を直結させ、特徴ある展示空間と対話するアートを生み出し、歴史と現代アートを感じる場、「記憶装置」となるよう赤煉瓦倉庫の魅力を最大限活用し、現代アートのクリエイティブハブをつくることを目指していく。

なお、開館後は企画展と連動した主催プログラムはもとより、市民活動団体や事業との共催・提携プログラムも展開し、地域文化の再生やコミュニティの再構築に寄与していく。また、仕事の創出や人の移転も積極的に行なう予定。学芸に関しては広く全国から人材を求め、運営に関する人材は主に地域雇用を行ない、地域の活力創造の一助としていくという。

煉瓦倉庫の建築・改修は田根剛氏が担当。歴史と伝統に誇りを持ち、市として「レトロモダン」をコンセプトに現代の暮らしへと継続する弘前市民の高い文化意識と街への想いを汲み取り、歴史的建造物を多くの煉瓦を使って空間を組み立て直すプランを提案。改修方針は「現状をオリジナルの状態に修復するとともに、無用な建築デザインを付加せず、最小限の設備・機能を用いて現代美術館としての要請を満たすこと」。古いものを新しくしてしまうのではなく、過去のものを未来へと引き継ぐ『記憶の継承』をコンセプトに煉瓦倉庫を美術館へと生まれ変わらせる。
▲1階平面図
▲2階平面図

▲模型(スケールは1/50)

老朽化や経年によって傷んだ外壁を全て「赤煉瓦」で覆い、老朽化した屋根を「シードル・ゴールド」の屋根葺にすることで、光によって移ろう屋根の輝きが新たな美術館のイメージを創出。A棟は市民に開かれた文化施設として様々な活動が行なわれ、B棟は倉庫の持つ空間性を活かした国内でも稀な大型展示のできる展示空間を計画。また酷く傷んだC棟を「シードル・カフェ」として再生することでアートと市民をつなぐ吉野町緑地の中心の場所を。記憶の継承と風景の再生によって生まれる新たな芸術文化施設が弘前を世界へと繋げる場所に変身させる。20185月に着工し、2019年秋に完成予定。2020年春のオープンを目指す。

▲耐震改修については外側から鉄骨で固めていく方法ではなく
煉瓦と煉瓦の間に穴をあけ、その中に鉄骨を通す方法を採用
高度かつ世界でも珍しい例で、東京駅の建て替え時にも採用されたそう
▲展示室の壁には元々のコールタールの壁をそのまま生かし
「煉瓦倉庫でしかできない展示」というサイトスペシフィックを付与することで
アーティストの創造性を喚起する空間を生み出している


田根剛〔建築家〕/ ATELIER TSUYOSHI TANE ARCHITECTS
1979年東京生まれ。ATELIER TSUYOSHI TANE ARCHITECTSを設立、フランス・パリを拠点に活動。2006年にエストニア国立博物館の国際設計競技に優勝し、10年の歳月をかけて2016年秋に開館。また2012年の新国立競技場基本構想国際デザイン競技では『古墳スタジアム』がファイナリストに選ばれるなど国際的な注目を集める。場所の記憶から建築をつくる「Archaeology of the Future」をコンセプトに、現在ヨーロッパと日本を中心に世界各地で多数のプロジェクトが進行中。主な作品に『エストニア国立博物館』(2016年)、『A House for Oiso』(2015年)、『とらやパリ』(2015年)、『LIGHT is TIME』(2014年)など。フランス文化庁新進建築家賞、フランス国外建築賞グランプリ、ミース・ファン・デル・ローエ欧州賞2017ノミネート、第67回芸術選奨文部科学大臣新人賞など多数受賞。2012年よりコロンビア大学GSAPPで教鞭をとる。



【建築概要】
 設計      建築設計 ATELIER TSUYOSHI TANE ARCHITECTS株式会社
         設計統括 株式会社NTTファシリティーズ
              株式会社MTTファシリティーズ東北
         構造設計 株式会社大林組
              スターツCAM株式会社
         設備設計 株式会社森村設計
 設計協力    照明設計 株式会社岡安泉照明設計事務所
 監理      ATELIER TSUYOSHI TANE ARCHITECTS
 主な建物用途  美術館
 階数      地上2


■弘前芸術創造株式会社
弘前市吉野町緑地周辺整備等PFI事業の推進のため、スターツコーポレーション株式会社、株式会社大林組、スターツCAM株式会社、株式会社NTTファシリティーズ、株式会社南建設、エヌ・アンド・エー株式会社、スターツファシリティーサービス株式会社、株式会社西村組の共同出資にて2017年に設立。





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